竹取物語(まさか編)
昔々のこと、おじいさんは竹藪で煌々(こうこう)と輝く竹を見つけました。切ってみると、中から小さな女の子が現れました。
子供のいないおじいさん夫婦は、
「天からの授かりものじゃ」
と喜び、我が子として育てることにしました。
『かぐや姫』と名付けられ、それはそれは大事に育てました。
すっかり大きくなったかぐや姫の元には、あちこちから嫁に欲しいと言う人が絶えませんでした。
しかしかぐや姫は、どんな縁談も断り続け、全く取り付く島もありません。
そして、かぐや姫は何が悲しいのか、空を見上げては涙ぐんでおりました。
ある日、空から釣瓶(つるべ)が下がり、天女が水を汲みに来ました。
かぐや姫に近づくと、そっと呟きました。
「このまま、この家にいたらどうですか?」
一言告げると、急に人の気配を感じた天女は、慌てて天へ昇って行きました。
天女は、天上人(てんじょうびと)が地上では住めないことを知っているはずなのに、この呟きはどうしたのでしょうか?
そうです。かぐや姫は天上人だったのです。
かぐや姫は月を離れ、おじいさん夫婦の子供になりました。久方振りの天女からの連絡を耳に挟んで、かぐや姫は落ち着きません。
「満月も近いと言うのに……」
月が満ちると、かぐや姫は月に帰らなければならないと思っています。それを今、心を揺るがせるようなことを、天女が口走ったのです。
次の日、また天女がやって来ました。
「これを」
天女は一通の手紙を渡すと、すぐに天へ帰って行きました。
手紙の封を切ると、かぐや姫は驚きました。
『姫さま、ご想像下さい。
今、月では手足を伸ばした巨大な蜘蛛が、日に何度も頭上を掠(かす)めます。
その蜘蛛が時折、光りを放つのです。
もう怖ろしいのなんの。困ったものです。
蜘蛛とは申しましたが、蜘蛛ではないのかもしれません。よって『蜘蛛にも似たこの物』と呼ぶことに致しましょう。
蜘蛛にも似たこの物は、月の周りを回り続けているようです。
どうも時空を超え、月にやってきたと思われます。秘かに入手した資料によると《人工衛星》と称するもので、月の写真を撮るのが目的だそうです。
月には兎がいるだの、蟹がいるだのと下界の人間から親しみの目で見られていました。
そんな月に、時空を超えてやってきた人間が来たのです。
先日も庭に出てみると、人間が歩いているではありませんか!
人工衛星を使って、あろうことか月の裏に回り、写真を沢山撮っていました。一番見られたくない部分なのに。
あの人間たちに征服されるのも時間の問題でしょうか。姫様、今お戻りになっては……』
「時空を超えてきた者たちに、我が月を占領する権利などないわ」
かぐや姫は一層声に力を込め、
「今こそ、太陽の光を使う時。目の眩(くら)む程の多くの光を集め、照らすのだ。月の周りを回るハエ共を撃退させるのだ。月を占領するなど、千年早いわ!!」
強い口調のかぐや姫の声は、天まで届きました。
満月の夜、一旦は月に戻ることを止めようとした天女と共に、かぐや姫は無事に月に帰りました。
そうして年月は流れ、人工衛星は昭和に入り、本格的に打ち上げられるようになりました。
-fin-
2014.11
『童話や昔話の主人公が、その話の中でどうしてもやってしまう事を止めようとする物語』をテーマに書いたフィクションです。