夢置人(ゆめおきびと)
七十才を過ぎ、明け方に夢を見る事が多くなった。
これは二度寝のせいだ。
一年ちょっと前までフルタイムで働いていたので、朝は早かった。
その名残(なごり)で未(いま)だに五時には目が開く。
こんな時間に起きても、独り暮らしの身。する事もそうそうない。
「六時に起きるか」と目を瞑(つむ)ると、知らぬ間に寝てしまう。
先日も、ふあーと、とてもいい気分で目が覚めた。
『何だ。今のは夢か……。そうだ、今日は忘れないようにメモしておこう。ええ~と、あれ? 何がどうやった?』
早く、早く。急いでノートを取りに行く。
ところがノートを開いた途端、鉛筆を握る手が宙に浮いた。
『忘れた。今さっき見た夢なのに?!』
後(あと)は、悔しい気持ちで一杯だ。
「もう一度、布団に入って寝てみるか」
すかたん(※)な言葉も口を衝いて出てくる。
私は言いたい。
私達が毎夜見る夢を運ぶ人、夢置人(ゆめおきびと)がいるのではと考えている。彼らに是非とも伝えたい。
1:夢から覚めても、見た夢の跡形(あとかた)をどこか記憶の隅に残して欲しい。
目を覚ますと「夢を見た」という事実だけが残り、夢そのものは完全に消えてしまう。
胸がホクホクする夢ですら、時間が経てば忘れてしまう。あぁ、勿体ない。
塞ぎ込んでいる時に、その良い夢を見られたらどんなにいいか。気持ちの切り替えが出来、前向きになれる。
2:好きな時に好きな夢のシーンを映し出す録画機が欲しい。
人間の頭の中に録画機がある訳がない。
が、どうして、時に記憶に基づいた夢を見るのだろうか?
「きっと頭の中に、秘密の録画記録を置いている小部屋があるのだ」
と思えて仕方がない。
「いつか見たあの夢が今の私に必要だと感じたら、頭の中にある録画機が必要な夢の所まで逆回転して、起きている私の目で放映するような録画機があってもいいだろうに」
そんな可笑しな事を考える私だ。
3:夢置人(ゆめおきびと)に夢を預かって欲しい。
私の夢を預かってくれる夢置人がいれば、私の困った状況は変わる。
月一度通う文章教室の宿題が出来ない。
夕べ見た夢がヒントになっていたのに消え、忘れてしまった。
『あの夢はヒントになったのに』
夢さえ思い出せば、逃がした魚は大きかったと嘆かない。
夢を見るような話と言われての、私の〝夢置人(ゆめおきびと)一時夢預(いちじゆめあず)かりを〟と願うのは本気だ。
※すかたん:(意味)とんちんかん。まぬけ。
-fin-
2019.12
〝『○○に対してしてほしい事』を三つあげ、エッセイを書く〟をテーマにした作品です。